優しい手①~戦国:石田三成~【完】
――二人が仲良く声を上げながら城内を歩いている姿は他の武将や奉行にも広く知れ渡ることとなり、


よもやあのような可憐な女子が…

三成の時期妻になる女子だと知った面々は驚愕の声を隠せないでいた。


「今日はもう帰ってもよいぞ」


気になって仕方がないという風体の三成に秀吉が笑いを噛み殺しながら声をかける。


いつもの鉄面皮にはやや陰りが射し、視界に入る場所を桃たちが通る度につい筆が止まってしまっていることは本人も気付いていて、


秀吉は上座から扇子を投げつけた。


「桃姫には例の件は言うたのか?」


「いえ。屋敷へ戻り、ゆっくり説明しようと思っております」


――鼻の下を伸ばした奉行たちが親しげに桃に話しかけている姿を見咎めた三成が機敏に立ち上がり、秀吉に一礼する。


「まあとにかくゆるりとして来い。その代わり、そなたが居らぬ間に攻め込まれた場合の戦術兵法はまとめて来るんじゃぞ」


「はっ」


…はたから見ると、きちんと盛装した桃はかなり…可愛い。


三成に寵姫が存在するなど天変地異が起きるのと同じ位有り得ないことなので、


事情を知らずに桃に取り入ろうとした奉行は、肩を叩かれて振り返った時の三成の笑顔に凍りついた。


「桃…姫は我が客人。何用か?」


「ああ、いや、そうであったか…そ、それはすまぬ」


上座から秀吉に目配せされた奉行がそそくさと去り、三成は傍らの茶々に小さく微笑みかけると桃の手を握った。


「屋敷へと戻らせて頂きます。茶々殿には大変ご迷惑をおかけした。では」


「ちょ、ま…っ、茶々さん秀吉さん、ありがとうございました、またねーっ」


盛大に手を振られ、秀吉はにこにこしていたが、茶々は繋がれた手に見入っていた。


それがひどく羨ましく、三成の手をあんなふうに握ってみたいと思わずにはいられなかった。


「茶々よ、寂しくなったのう。桃姫は器量よしな女子じゃあ、三成め、やりおるなあの助平が!」


――思えば三成からあんなふうに触れられたことはなかった。

触れてみたいとは思っても、絶対に触れてはくれなかった。


「ええ、本当に…」


呟きは虚しく響いた。
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