隼 ASPHODEL-5編

2

「やっぱり、脳の萎縮は確認されたか…」

書類に目を通しながら佳伊が沙耶に言う。

「はい、ただ、塩基配列がおかしいんです」

沙耶に目を向ける。

「最初の患者は、はするの作った五月です」
「クローンで作ったって言う?」
「はい」

佳伊は机の上で手を組んだ。

「でもクローンはまだまだだし、大体突発性なんだろ?五月だったとしてもここまで広がる理由にはならない」

沙耶はため息をついた。

「それが問題なんです…」

おでこに手をあて、困った表情をする。

「はするが作ったクローンはさすがというか滑らかな出来でした。本人が生き返ったかのように。症状が出た時はショックだったようですが塩基配列には問題なかったって言うんです」

「クローンだからではなく?人間の方が症状が悪いということか?」

「そうです。今回の莎羅さんを調べてもやっぱり五月の方が症状が軽かった。とすると…非科学的ですが人類は死ぬのを待つしかない状態になるでしょう」

佳伊が驚いた顔をする。

「現実主義の沙耶がそんな事を言うとは意外だな」

「他に説明が付かないので」

「とにかく調べを進めてくれ。今後患者の受け入れは俺が決定する」

佳伊がにっこりと笑う。
沙耶は顔をそらして、分かりました。と赤くなった顔を背ける。
すると佳伊が買った真珠のピアスが見えた。
それを見て佳伊は更ににっこりと微笑んだ。
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