*short.short*


*Call*



「あたた…、腰が…」


大掃除。


やりだしたら止まらなくて、キッチン、トイレ、バスルーム。ピカピカに磨きあげて、今まで見て見ぬふりをしてきたクローゼットの中に挑んでいた。


そしたらいならい物が出てくるわ出てくるわ。


元カレから貰った流行遅れの洋服、結婚式の引き出物、もう二度と着ないであろう際どい水着、通販で買った美顔機、もう飾るのさえ面倒臭くなったクリスマスツリー。


大掃除してるの筈なのに、余計に部屋の中が散らかってしまっていた。


一人暮らしも八年目。
いらない物がこんなにもあるなんて。


「はあ…」


ため息をひとつついて、再び作業に取りかかる。


奥の方にある段ボールを引っ張り出して見ると中はガラクタだらけで、ガサゴソと中を物色していると。


「わあ。懐かし……」


高校に入って直ぐに親から初めて買って貰った携帯電話が出てきた。


開いて見るけど電池切れ。
段ボールの中を再びガサゴソやって充電器を取りだし、差し込んで電源をいれてみると、そこには当時初めて付き合った彼と、まだ幼い私のツーショット。


何で別れてしまったのかは忘れてしまったけれど、その頃の思い出が一気に溢れ出す。


毎日夜中までメールして、手を繋いだだけでドキドキで。


今考えてみればこんなにも純粋に人を好きになった事はなかったなぁ……。


高校卒業して。憧れていた一人暮らしを始め、進学、就職して、大人の女性になって、大人の恋愛もそれなりに経験してきた。


でも、心にはぽっかりと穴が開いてしまっていた。


器用に生きていけるようになったけど、毎日がドキドキでしかたなかったあの頃の方が、今より何倍も輝いていた気がする。


「……元気にしてるかなぁ」


ぼんやりと古い携帯を見つめていると、現在の携帯が着信を知らせて、ポケットから取りだし見てみると。


「…うそ」


今まさに考えていた彼からの着信。


彼も、番号……、変わってなかったんだ。


少し震える指先で、ドキドキしながら通話ボタンを押すと。


『……久しぶり。俺…、覚えてる?』




*end*


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