*short.short*
*Actress*
「私…、もう死ぬわ…」
………え?
聞き捨てならない言葉に、ほろ酔い気分で家までの道のりを、近道して公園内を横切ってフラフラと歩いていた俺の足は、その場でピタリと止まった。
「その前に……、貴方を殺してからね!」
えぇぇーーっ!?
さっ、殺人事件!?
ヤバイじゃん!!
俺は慌てて、声がした方に咄嗟に飛び出してしまった。
「待てっ!!」
「えっ?」
「人殺しなんてやめろっ!」
飛び出した先には、外灯に照された若い女がひとりでポツンと立っていた。
「………ぷ…、ぷはははは!」
「へ?」
いきなり笑い出す女に俺は暫し呆然。
「あははっ。ごめんなさい、お芝居の練習してたの」
「芝居……?」
「うん。コレ台本」
女はそう言ってペラペラとその台本とやらを捲って見せた。
俺はガックリと力が抜けてしまって、その場にしゃがみこみ、酔いも一気に覚めてしまった。
「なんだ……、芝居の練習か、俺はてっきり…」
「ごめんね?」
女はいつの間にか俺の前にしゃがみこんで、俺の顔を覗き込んできた。
「……いや、大丈夫。でもびっくりしたなー、ホントに殺人事件かと思った…」
「そんなに迫真の演技だった?」
「うん」
「ホントに?私、オーディションに受かるかな?」
「きっと受かるよ」
「ふふふ。ありがと。おかげで自信ついた」
笑うと彼女は立ち上がり、再び外灯の下に立ち。
「ね?ちょっとだけ、ここに立っててくれない?」
自分の足元。1メートル先辺りを指差し、俺は言われた通りにそこに立つ。
外灯のスポットライトを浴びた彼女は。
「ねぇ…、愛してる。って言って…」
俺は戸惑いながらも。
「……愛してるよ」
「私もよ…」
彼女はゆっくりと近づいてきて俺の首に腕を絡めてきた。
俺は彼女に引き寄せられ。
その唇に触れようと顔を傾け。
「ってのはどう?」
寸での所で彼女はそう言った。
「は?」
「キスシーンもあるんだよね−…、私キスシーン苦手で…上手く出来てたかな?」
「…ちっ、………演技かよ…」
「え?何?」
「……いや、何も…、迫真の演技だったよ…」
……さすが女優だね…
*end*