*short.short*


*Premonition*



節電のために業務終了時には切られてしまうエアコン。


誰も居ない22時のオフィスは、PCを打つのが困難なくらいに手がかじかんでしまって、時折両手で口を覆って、はぁっ、って息をはきかける。


フリースの膝掛けなんかじゃ全然暖かくなくて、カシミアのストールを肩にぐるぐる巻きにしてひたすらPCの前でカタカタやってる。


今は12月。いくら節電のためって言ってもエアコン切られたら、ただでさえ人気のない広々とオフィスはもうそれだけで凍えるほどで。


−−グウゥゥゥ……


おまけに空腹で。


これで眠気が襲ってきたりなんかしたらもう私、確実に死ぬな。


あまりの寒さに身体を強ばらせていたら肩がこってしまった。


PCを打つ手を止め両手を上にあげ、思いきり伸びをしてから左手で右肩を揉みほぐす。


コーヒーでも飲もう。


もう何杯目になるかわからないコーヒーを入れるために立ち上がり、ふと窓の外を見ると街路樹のイルミネーション。


……もうすぐ、クリスマスかぁ。


なんて……。こんな時間まで一人オフィスで残業やってる私には関係ないか。
はは……。


「主任?」


誰も居ないはずのオフィスに声がして、そこに目をやると営業課の部下。


「何?驚くじゃない、忘れ物?」

「まだ、残ってたんですか?」

「そうだけど……」

「もう22時ですよ?」

「わかってるわよ、もう帰るとこ…」

「俺、送っていきます」

「え?いいわよ、電車、まだあるし」

「待ってたんです。送らせて下さい」

「は?待ってた?」

「いつ出てくるか、ずっと外で待ってました…」

「外って……、何で?」

「主任のクリスマスの予定、聞きたくて…」

「は?……、何で?」

「いいから、ほら、帰りましょ?」

「え?ちょっ…」

「うわっ、外に居た俺より手、冷たいじゃないですか!」


そう言って私の両手を包んで擦り出す幾つも年下の部下に、年甲斐もなくときめいてしまった。



*end*
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