3年分のキス





わたしは思わず息を飲んで
今日で会えなくなる彼の姿をみつめた

今、ここで思い出してくれたら
なんてあり得ないことを考えながら


あまりに長く見つめすぎたのか
彼が不思議そうな顔をした



「……退院、おめでとう」



彼はわたしが手渡した花束を受け取った



「…菜の花、ですか」



わたしが渡したのは菜の花の花束だった
初めて恋人同士になれた日に行った
菜の花畑を思い出してくれればと


「…きれい、ですね」



そんなわたしの願いも虚しいものだった
彼にはもう届かない







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