雨と傘と

幸葉②

ドキドキする。

春にいのことで授業中は全然集中できなかった。けど、放課後になったら、緊張と興奮で気持ちが高ぶった。

今日から部活がスタートする。
ソフトボール部に入るのは、ずっと前から決めていたこと。この日を心待ちにしてきた。やっとソフトができる。
小さい頃から三人で毎日毎日、飽きもせずにキャッチボールをしていた。二人は小学校の頃から少年野球のチームに入っていたけど、私は女の子だから入れなかった。

それが、辛かった。私も野球がしたかった。

それは願わないことだけど、今日からは、二人と同じグラウンドで白球を追いかけることができる。それは堪らなく嬉しいことだった。



今日の練習は、キャッチボールを延々と。それと先輩の後ろについて、球拾い。だけどとても楽しくてあっという間に時間が過ぎた。

グラウンド整備をしていると、練習着姿の春にいがこちらに歩いてきた。初めて見るそれはとても似合っていて格好よくて、見惚れてしまう。けど、浅く被った帽子の下は表情が少し曇っていた。

「お疲れ。着替えたら、部室の前で待っててくれる?」

そう言われて、なんだか恥ずかしくって、遠慮がちに小さく頷くと、春にいはふっと微笑んでゆっくりと戻っていった。後ろ姿を見ると、左のお尻に土がついていることに気が付いた。


どすっ。

「何ー!?先輩、何だって?」

耳元ででかい声がして、一瞬意識が飛びそうになる。小峰、圧し掛かるのはヤメテ!

「小峰、イタイ!!」

そう叫んでも、退いてくれない。

「部室の前で待っててって言われたの。一緒に帰ろうだって。」

「きゃー!!明日、絶対話を聞かせなさいよ。」

嵐のような小峰のせいで、私はさっきの春にいの雲った表情の意味にも、朔ちゃんがすごく悲しそうにこっちを見ていたことにも、気付かなかったんだ。
いや、小峰のお陰で。



< 13 / 53 >

この作品をシェア

pagetop