雨と傘と

朔人②

部活の後、一年だけ監督に呼ばれて練習着の注文書が渡された。説明が終わって部室に戻ると、兄貴はもう帰った後だった。

「瑞浪、お先!」

気分は最悪で、のろのろと支度をするうちに同級生は帰っていく。

「サクちゃーん、帰りましょー。」

俺を待っていてくれたのは、無駄に色気を振りまく兄貴の親友だった。

「景さん…お疲れっす。」

「ハルはユキちゃんと帰ったよー。だから、俺がサクを慰めてあげるからね☆」

そう言って投げキッスをする先輩を白い目で見る。チャラい先輩はそんな俺を気にも留めずに、さっさと外へ出て行った。

「スンマセン。」

俺は慌てて鞄を掴むと後を追って歩き出した。



「ユニホーム、結構高いんだよねー。ベルトとストッキングはリトルリーグのやつと色が一緒だから、それを使えばいいよ。あとソックスとかアンダーシャツはそこのスポーツ店のが安い。スパイクは少し大きいサイズ買って、中敷きで調整すればいい。どうせすぐ足のサイズ変わるよ。」

「マジっすか。そうしよ…あ、景さんはどこのグラブ使ってるんですか。」

「俺はね…」

そうやって、景先輩は真面目にアドバイスをくれた。いつものチャラさやいい加減さを引っ込めてまで。それは、俺が兄貴や幸葉のことを考えないようにするためだって分かった。その優しさが、景さんらしくて有難かった。お陰で、部室を出る時にモヤモヤしていた気持ちが少し落ち着いた。

「それじゃ、また。ありがとうございました。」

分かれ道で挨拶すると、

「俺はハルのことが好きだけど、サクのことも好きだから。」

今まで見たことのない優しい笑顔で、俺ら兄弟に対する愛を囁いた先輩は、たらたらと歩いて行った。先輩はすごい…なんであんなこと、さらっと言えるんだ。やっぱりあの人には敵わない。



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