雨と傘と
ゆっくり歩いていたつもりが、学校近くで二人に追いついてしまった。幸葉は歩くのが遅いから、兄貴もそれに合わせて歩いていたんだ。今まで、自分も無意識に彼女の隣であのスピードで歩いていたんだと初めて気が付いた。

二人の背中を見て、歩く速度を緩めた。

校門を入っても、まだ手を繋いでる二人。兄貴は手を話すつもりがないらしい。堂々と幸葉の手を引いていく。正直、かなり目立ってる…周りに見せつけるつもりらしい。独占欲強すぎだろ…

周囲の生徒がヒソヒソ言い始めてるのなんてお構いなしに、結局そのまま一年の教室まで幸葉を送っていくと、教室の入り口で立ち止まった。


二人は向かい合う。兄貴の手がすっと伸びて、そっと彼女の真っ直ぐな黒髪をひと束すくうと、そこに。

愛おしそうに、キスをした。

弟の俺でも、見たことのない色気のある、見惚れる仕草。


「またな。」

爽やかな笑顔で兄貴は去っていく。
幸葉は、ぼーっと突っ立ったまま兄貴の背中を見送っていた。



「きゃーーーーーーー!!」

教室から、黄色い悲鳴が聞こえた。そうだろう。あんなの。男でも惚れそうなくらいカッコいい。あんな甘いこと、さらっとやる兄貴…


そりゃ幸葉も惚れるよな。


…俺も叫びたかった。
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