雨と傘と

朔人⑤

兄貴が昼休みに来なくなって、しばらく経つ。
俺のせいだと、思う。兄貴は…今何を考えているんだ。いつも読み取れる兄貴の心は、最近ちっとも見えてこない。あまり会話もないから尚更だ。

この状況を、どうしようか…


「幸葉は…?」


昼休み、監督に呼ばれた俺は、幸葉の行方を見失った。もうすぐ予鈴が鳴るのに、教室に彼女の姿が見えない。どうしたんだろうか。しかし、小峰さんもいないから一緒なんだと思う。

結局授業が始まっても幸葉は戻ってこなかった。

体調が悪くて保健室に行っているという。きっと身体じゃない…心が悲鳴をあげているのだと思う。俺のせいだ…
あのキスで得た幸せは、倍以上の苦しみとなって俺と幸葉を痛めつけていた。こんなにボロボロになっても、想うことを止められない。信じられないくらいに不器用で、純粋で、醜い想いだった。

このままで、いいはずはない。

幸葉とも、兄貴とも、向き合わなくてはならない。例え、出口が見えなくても。



ろくに授業も聞かずに考えて、俺は気持ちを固めた。
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