雨と傘と
「それなら、いいよ。二人とは付き合わない。誰か違う好きでもない人と付き合うから。そいえば、この前告白してくれた隣のクラスの…」

「「ダメだ。」」

卑怯だ。俺たちを説得するために、あらゆる汚い手を使う。


「じゃあ、二人と付き合う。他には何も要らない。二人が欲しい。」

真っ直ぐ言われれば、照れずにはいられない。



好き。お願い。



好きな子にそう訴え掛けられて、折れない男はいるのだろうか。
幸葉と付き合える、触れられる。抱きしめてキスできる。
甘い誘惑に、俺の心は折れかかっていた。


俺だって、お前を手に入れたい。



「幸葉、それはかなり辛い道だよ。周りは認めてくれない。

…それでも、いいのか。」



「兄貴っ!」


固い表情でそう言う兄貴は、幸葉に引きずられて、頭がおかしくなっていた。いや、三人とも、おかしくなっていた。


「それでもいい。二人を幸せにするのも、不幸にするのも、私でいたい。」


きっぱりと、言う。

「私の選択が世間的に間違っていても。三人の間で正解ならば、それでいいの。どんなに自分が傷ついても、この気持ちだけは諦めきれない。

傲慢と言われてもいいから、二人を私は手に入れる。」


兄貴は真剣だった。

「わかった。どちらかと付き合っても、心の中は二股掛けることになる。それに苦しむのが幸葉だと思う。それなら、正々堂々と二股すればいい。

俺は幸葉と付き合うよ。」


それににっこり微笑む彼女。
もう俺も降参するしかなさそうだ。

「俺も、幸葉と付き合う。」


「うん。ありがとう。」





俺たちは、いばらの道を歩み始めた。
これが、間違いだったとは思わない。


精一杯の選択だった。
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