雨と傘と

幸葉⑦

二人があまりにも動揺するから、正直笑いそうになった。あんな間抜け顔、滅多に見られない。写メでも撮っておけばよかったな。


ねぇ。こんなこと言うの、おかしいってちゃんと分かってるよ。
私の性格からしたら、二股なんて許せないし嫌だし軽蔑するけど。




二人のためなら、私、悪魔になれるの。



瑞浪家を出る。まだ雨が降っていた。
5月の雨はまだ寒くて、傘を差すと遮られる雨粒に安堵する。

隣の家だけど、傘を差さなければ濡れてしまう。
こんなに近いのに、それが現実。

それは私と二人の距離みたいで、なんだか笑ってしまった。



どんなに雨が降っても、雪が降っても、私はこの距離を歩くんだ。自分の力で距離をゼロにするしかないんだ。






暖かな家に着くと、自分の部屋に入る。
今さらながら身体が震えてきて、ベッドに倒れ込む。

緊張して、強張った身体。
常識では考えられないようなことを言った口。
二人を愛すると決めた心。

あまりにも疲れ果てて、そのまま眠った。
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