雨と傘と
春にいが、いた。

とびきりの笑顔を向けて、私を見つめている。
左肩で壁に寄りかかって、ポッケに手を突っ込んで。

その姿に、思わず見とれた。



あれ…変だな。



今までの春にいと全然違って見えるよ。
急に胸がドキドキしてきて、息が上手く吸えない。

昔から変わらない少し茶色くて柔らかい髪。
中学に入ってからどんどん伸びた身長。
広くなった肩幅、学生服の下のしっかりした体躯。




中学で初めて目の前に見た春にいは、幼馴染のお兄ちゃんじゃなかった。
胸がキュンとなるほどカッコいい先輩だった。




春にいはその場で固まる私の方へゆっくり歩いてくると、じっと私を見つめた。


彼の瞳が一瞬ゆらりと揺れた気がした。

「制服だと、見違えるなぁ。」

そう言うと、そっと私の髪に手を伸ばした。
今までと何となく違う優しい手つきで…
憂いを帯びた表情、瞳。

春にいって、こんな風に私に触れてた?
こんな風に私を見ていた?



こんな風に、私って春にいを意識してた?
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