契約恋愛~思い出に溺れて~

「おはよう、ユウ。今日もいい天気よ」


変わりのない写真に声をかける。
すると紗優がもぞもぞと起きてきて私の傍に座った。


「パパ、おはよう」

「さ、紗優。ご飯にするわよ」


急いでロウソクを消し、着替えをさせる。
寒さに鼻をすする紗優にとって、パパの香りは線香の香りだろうか。


 階下に降りると、父はもう食事を済ませてお茶を飲んでいた。


「おじいちゃん、おはよう」

「おはよう、紗優」


紗優に笑顔を見せ、その後私をちらりと見る。

今年60歳を迎える父は、順調に出世街道を登りつめ今は会社の取締役の一人になっている。

通常なら定年という年齢だが、もう数年は順風満帆に働くのだろう。

そんな父にとって、サーファーと結婚した揚句、先立たれて実家に戻ってくるような娘は、目の上のたんこぶみたいな存在だろう。


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