契約恋愛~思い出に溺れて~

夜更けの出会い


 私が泣いている間、英治くんは何も言わずそこにいた。

ポケットから煙草を取り出し、私に煙がかからないように反対方向を向きながら、息を吐く。

その煙の臭いで多少意識が刺激されるのか、時折り達雄がむにゃむにゃと言葉にならない寝言を呟いていた。


「……ごめんなさい」


鞄からティッシュを取り出し、軽く鼻をすすって押さえる。

こんなとこ見られるなんて恥ずかしい。


「あのさ」


英治くんは気にした様子もなく、私を見る。


「紗彩ちゃんって、免許持ってんだっけ」

「え? 持ってるけど、……ペーパードライバーみたいなもんよ?」

「ペーパーでもあればいいよ。達雄さ、車で来ちゃったんだと。代行頼むよりさ、紗彩ちゃんが送って行ってくんない? ついでに俺も」

「なんで私!」

「だって、俺一応酒飲んじゃったし」

「だからって」

「達雄んちからのタクシー代は払うからさ。ね、お願い」


可愛く片目つぶられたって困るんですけど。

大体さっきまであんなに深刻に話をしてて、私なんか泣いてたっていうのに、
送って行けってどういうことよ。

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