契約恋愛~思い出に溺れて~


「ほら、もう23時も過ぎてるし」

「……そうね」


私は苦笑いをして腰を上げた。

多分、英治くんには勝てない。
大人しくいうことを聞いている方が早そう。


「道教えてくれる?」

「大丈夫。達雄の車、ナビついてっから」


そう言って彼は立ち上がり、酔っているとは思えないほどしっかりした動作で支払いを済ませ、達雄の腕を肩にかけて起き上がらせた。


「うーん」

「ほら、達雄帰るぞ」

「ああ」


半寝状態の達雄は、薄目を開けて私を見ると、「紗彩」と一言呟く。
そして手を伸ばして、私を引き寄せた。

けれども彼は英治くんに抱えられているのだから、必然的に私と英治くんも触れるくらいの距離になる。

一瞬鼻をかすめた煙草の香りにビクリとして、私は達雄の手を払った。


「もう、しっかりして。達雄、帰るわよ」

「う……ああ」

「ほら、歩けるか?」

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