契約恋愛~思い出に溺れて~


「行ってくる」

「行ってらっしゃい」


私と紗優が食事を始めるのと同時に、父がキッチンを出る。
後ろからついて行くのはにはカバンを持った母。
玄関で靴ベラをそっと差し出すのはいつもの事。

典型的な亭主関白の構図がここにはある。


父を送りだし、キッチンに戻ってきた母は私たちを見て溜息を一つつく。


「ホラ、紗優もうちょっと早く食べて」

「はあい」


子供がそんなに上手に食べれる訳はない。
スプーンですくったご飯がうっかり床に落ちてしまった。


「紗優、お行儀悪いわよ」


そう言って、ご飯を拾う母。
少しだけ身をすくめる紗優。

それを見ていながら、何も言ってあげれない私。


実家にいることで、紗優に気を使わせてしまっている事は分かっている。

だけど、私にも仕事がある。
どうしても夕方から紗優を見てくれる人が必要なのだ。

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