契約恋愛~思い出に溺れて~
私は恥ずかしさに顔を真っ赤にしていたのに。
英治くんは嬉しそうに、運転方法をレクチャーする。
「ほら、そこで一気にハンドル切って。……ああ、逆逆。もう一回」
「う、こ、こう?」
「そうそう」
普段、会社では偉そうに指導する立場になっているから。
こんな風に誰かに何かを教わるのは久しぶり。
なんか、自分がものすごく何もできない人になったような気がした。
「ようやく出れた……」
車はようやく大通りに入り、後はしばらくまっすぐ進めばいいだけだ。
そこへきてようやく、私は溜息と共に言葉が出せた。
「頑張ったねぇ。紗彩ちゃん」
茶化すように、英治くんが言う。
……不思議な人。
時折り責めるような強い口調で話すかと思えば、優しい時もある。
かといえばからかうような態度をしたり。
なんていうか、掴めない人だ。