契約恋愛~思い出に溺れて~
「紗彩ちゃん」
「え?」
運転に集中していないと怖いので、真っ正面だけを見つめたまま返事をする。
「この先何が起こっても、過去は変わらないよ」
「か……こ?」
信号がすんでで青に変わる。
ゆっくり話を聞きたいけど、そのタイミングが無い。
かといって車線変更さえびくついている私には、路上停車するのはいいけど、その後発進する勇気がない。
つまり走り出したら目的地まで止まれないというありさまだ。
「どういう……」
「失う事をそんなに怯えるなって事」
「なにそれ」
問い返しても、彼はもう返事をしなかった。
私もそれ以上は追及できなくて、黙って前を見ていることしかできなかった。