契約恋愛~思い出に溺れて~


「紗彩ちゃん」

「え?」


運転に集中していないと怖いので、真っ正面だけを見つめたまま返事をする。


「この先何が起こっても、過去は変わらないよ」

「か……こ?」


信号がすんでで青に変わる。

ゆっくり話を聞きたいけど、そのタイミングが無い。

かといって車線変更さえびくついている私には、路上停車するのはいいけど、その後発進する勇気がない。

つまり走り出したら目的地まで止まれないというありさまだ。


「どういう……」

「失う事をそんなに怯えるなって事」

「なにそれ」


問い返しても、彼はもう返事をしなかった。
私もそれ以上は追及できなくて、黙って前を見ていることしかできなかった。


< 121 / 544 >

この作品をシェア

pagetop