契約恋愛~思い出に溺れて~
後部座席の達雄が、低い声でううんと唸る。
気がつけば車内もお酒臭くなっている。
私は息を一つ吐き、英治くんの視線を振り払った。
「ありがとう」
「うん。気をつけてね」
英治くんが笑う。
その笑顔を底知れないと感じたのは初めてだった。
私は気を引き締め直してハンドルを握り、アクセルを踏んだ。
今は運転に集中しよう。
英治くんが何を考えて、私を呼びつけたかなんて、きっと分かりっこない。
彼は私の常識の範疇にはいない。
そんな気がした。