契約恋愛~思い出に溺れて~
タクシーに乗り込み自宅の住所を伝える。
動き出した風景を見ながら、少し緊張が解けてきたのを感じた。
さて、どうしようかな。
多分達雄と綾乃ちゃんは上手くいく。
私はまた、ユウのいない寂しさと心も体も戦わなくちゃいけないんだ。
そう思って、溜息をついた時、携帯電話が鳴った。
見た事のない番号を不審に思いながらも、一応でる事にする。
「……はい?」
『あ、紗彩ちゃん』
途端に、心臓が大きく跳ねた。
聞き覚えがある、というか、今日散々聞いた声。
英治くんの声だ。
「え、英治くん?」
『そう。大丈夫? 無事についた?』
「着いたわよ。いま、タクシーに乗って帰るとこ」
『そう。なら良かった。それだけ』
「ちょ、ちょっと待って!」
思わずひきとめてしまった自分に驚く。
別に話すことなんてないはずなのに。