契約恋愛~思い出に溺れて~
「ママ」
バタバタという足音を響かせて、紗優がやってきた。
「何してるの?」
「お掃除よ。ほら、パパの写真」
「うん」
紗優がユウの写真に目を向ける。
ぱちぱちと何度か瞬きをしてそれを私に返す。
「パパ、うみにいるの?」
「うん。そうね」
海にのまれた彼のことを説明するために、私は紗優にずっと「パパは海にいるの」と言っていた。
もちろん遺体は上がって、埋葬されてお墓には遺骨もちゃんとはいっているけど、私もいまだにユウが海の中にいるような気がしている。
写真を仏壇の中に戻し、一本だけお線香をつける。
懐かしささえ感じる香りが、鼻をかすめる。
ユウといえば海の匂いというのが、昔は当たり前だったのに、
今はお線香の香りの方がなじみがある。