契約恋愛~思い出に溺れて~
「ねぇ。ママ」
紗優が、ぎこちない様子で私の服の裾を掴んだ。
「あたらしいパパができるって、ほんとう?」
「え?」
驚いて、私は紗優を見た。
その私の態度に、少し怯えたように紗優が体を揺らす。
「おばあちゃんがいってた。あたらしいパパができるかもしれないよって」
「おばあちゃんが?」
無意識のうちに舌打ちをしてしまった。
紗優にそんなこと言うなんて。
結婚するなんて、一言も言っていないのに。
「そしたら、サユうれしいなぁって思って。だって、サユ。さびしいんだもん。おともだちがパパのはなしするとき、きゅーってここがいたくなるの」
紗優は服の胸元をギュッと握った。
可愛いリボンがついてる、長めのチュニック。
母が買ってくれたのだろう、私では買わないような水色の洋服だ。
服さえ一緒に買ってあげれない。
寂しいって思わせてしまっているだろうと、考えてはいた。
でも、実際に言葉に出されると、どうしようもなく胸が痛む。