契約恋愛~思い出に溺れて~
いつも私が泣いた時は、傍に来て近くの椅子や棚に腰かけて、涙を足元に一つこぼすまで、穏やかな表情で眺めてる。
そうしてゆっくりと指先で涙をすくって、大きな腕で抱きしめてくれる。
包みこむようなそれは、ものすごい安心感を私に与えてくれて。
彼の傍でなら力を抜いてもいいんだと、私にいつも思わせてくれた。
「……」
だけど、今はもうユウがいないから。
私はやっぱり昔のように、意地を張っているしかない。
涙は自分の力で止めて、早く紗優のもとに戻らなくちゃ。
5分くらい泣いた後、私は顔を洗って、もう一度メイクを直した。
鏡の前で平気な顔を作る。
せっかく紗優と過ごせる週末なのに、
泣いていたのではあの子が可哀想だ。
頬を両手でパチンと挟んで、一度深呼吸をした。
そして、部屋で待っている紗優の元へと、張り付けたような笑顔で戻った。
「紗優」
私の声に、紗優は心配そうな表情でこちらを見る。