契約恋愛~思い出に溺れて~
言葉を出せない私の肩をポンとたたいて、英治くんは紗優の後を追った。
「紗優ちゃん、何して遊びたい?」
「えー?」
紗優が大きな声で答える。
彼の顔をじっくり見てこの人は信用できるのかさぐっている。
紗優は人を良く観察する子だ。
そして出した結論は、信用できる、だったのだろう。
紗優は何度かためらうように口をパクパクさせた後、思い切ったように大きな声を出した。
「きゃ、……キャッチボール!!」
「キャッチボール? はは。男の子みたいだな。グローブとかボール持ってるの?」
「ない、……けどやってみたい」
「じゃあ、買いに行くか。ようし」
英治くんは紗優の両脇に手を滑らせて持ち上げると、そのまま肩に乗せた。
「うわー、高い!!」
肩車された紗優は、突き抜けるような笑顔を見せた。
それは、私がしばらく見たことがなかった、とても晴れ晴れしたものだった。