契約恋愛~思い出に溺れて~
「あのね。サトルくん、おとうさんとキャッチボールいつもするんだって。
いちど、やってみたかったの」
「そう。でも腕前はまだまだだね。紗優ちゃん、ちゃんとボールを見るんだよ。怖がって最後目をつぶってるじゃないか」
「だってー、ぶつかりそう」
「目をつぶった方がぶつかるよ」
楽しそうに、二人は話をしながらキャッチボールを続ける。
こんな風にすれば、紗優は笑うんだ。
心の底から、楽しそうに。
いつも私に気を遣ってくれていたんだろう。
キャッチボールも言いだせなかったに違いない。
だって私は無類の運動音痴だし。
どこかに連れて行くくらいは思いつくけど、
こんな風に遊ぶなんて、考えもしなかった。
「ママー、おなかすいたー」
笑顔のまま紗優が戻ってきて、コンビニの袋を開ける。
ごくりとジュースを3分の1くらい一気飲みして、おにぎりをバクバクと食べた。
おかずもない、質素なお昼。
でも嬉しそう。
どんな豪華な料理を出した時より、
とってもとっても嬉しそう。