契約恋愛~思い出に溺れて~
「ママ」
紗優が、遠ざかって行く車を見ながら、私の手を握ってポツリと言った。
「サユねぇ。ほんとうはパパのことおぼえてない」
「……」
「でも、おもいだした。あんなふうだった。かたにのせてもらったこと、あったよね」
「紗優」
力が抜けたような気がした。
紗優がユウの事を忘れていたという事実は悲しい。
でも、思い出してくれた事が嬉しくて。
そのきっかけが英治君だったことが、
私の胸を締め付けた。
今のこの気持ちに、名前をつけることは難しいけれど。
体を埋め尽くすこの感情は、決して悲観的なものだけじゃない。