契約恋愛~思い出に溺れて~
「……ちょっとトイレに失礼します」
適当に返事をして立ちあがった瞬間に、小さな声でポロリと言った。
「子供ほったらかして仕事ばっかりなんて最低だよな」
一瞬、息が止まった。
一番言われたくない事を、何故関係のないこの人に言われなければならないのだろう。
それでも、喉元まで押しあがってきた反感を、無理矢理に飲み込んで私はトイレに向かった。
すると後から渚がついてくる。
「紗彩」
「渚」
「橘さんに何か言われたの?
あの人いっつも紗彩に突っかかって。
イヤよね。前に凄いミスした時に紗彩に直してもらった恩も忘れてさ」
「それは、別にいいのよ。持ちつもたれつで助けあうものでしょ、仕事仲間って」
「またそんな甘い事言う」
「本当の事よ」
「もっとはっきり言えば。
気に入らないでしょ、橘さんの事。
紗彩は色々我慢しすぎだよ」
「気に入らない訳じゃないよ。同僚だもの。
でも気づかいは嬉しい。ありがと」