契約恋愛~思い出に溺れて~
「やっぱり言ってないわ」
『ちゃんと目配せしたじゃん。紗彩ちゃん頷いてなかった?』
「あ、……あれ。でも、頷いてなんかないわよ」
『そうだった?』
あくまでも、マイペースな英治くんに、次第におかしくなってきて、思わず笑い出してしまった。
「ふふ。……今日はありがとうね。紗優、喜んでた」
『うん。俺も楽しかったよ』
「……そう」
だけど。
どうして電話をくれるの?
どうして優しくしてくれるの?
そんな疑問が頭をかすめて、何を言ったらいいか分からなくなる。
『紗彩ちゃんも楽しめた?』
「え? う、うん」
『それは良かった』
落ち着いた声の響きに、答えを聞きたくなってしまう。