契約恋愛~思い出に溺れて~


 そして、月曜日。
私は午後から客先へ打ち合わせに出ていた。

ここのところ仕事は順調で、特別トラブルもない。
ただ、もうすぐ三月になるから、年度末までに終わらせなきゃいけない案件については、ちょっと神経質にはなっている。

陽が大分西に傾いてきている。
街の中には、仕事が終わって帰路につく人の姿もちらほら見えた。

そういえば、この辺りに達雄や英治くんの会社があったんじゃなかったかしら。

そう思って、ちらほらとあたりを見回してみるけど、
大概の会社はビルの中に入っているから、社名なんかも大きく出ている訳じゃない。


「見つかる訳ないか」


小さく呟いて苦笑する。

英治くんとは今日の夜約束してるんだもの。
別に慌てて探す必要なんかない。


「次は、会社に戻って定例会議……」


独り言を呟いて、駅まで歩こうと一歩歩きだした時、私の眼は反対側の歩道に釘付けになった。

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