契約恋愛~思い出に溺れて~

行きかう車の合間から見えるのは、黒のコートを着込んだ英治くんと、同じく黒のロングコートを着たショートヘアの女性。

親しげに話をしながら歩道を歩く二人は、服装が似ていたせいか、まるで対をなしているように見えた。

英治くんは、大きく片手をあげると、タクシーを止め、車内に彼女を先に誘導するようにして乗り込んだ。
そして、タクシーはそのまま車の波に乗って走り去って行った。

私は、力が抜けてしまったように、ただ小さくなっていくタクシーを眺めた。

……誰だろう。仕事関係の人?

時間から考えれば、そう思った方が自然だ。
だけど、見ようによってはこれから二人でどこかに行くようにも見えた。

でも。

英治くんは今日は私と約束してるんだし。

何か話をしたいって、そう言ってたんだし。


私は頭を振って歩き出した。
早く会社に戻らなきゃ。

定例会議は18時から。
もうギリギリの時間だ。
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