契約恋愛~思い出に溺れて~

バーなのだから客のおしゃべりのざわめきなんかがうるさいはずなのに、
オーナーが奏でるピアノが鳴り響くと、急に皆が静かになる。

その音色は、深かったり浅かったり感情を揺さぶるような情熱的なもので、
酔いしれてグラスを傾ける人も多くいた。

そして演奏が終わると、最初は小さかった拍手がわき上がるように大きくなる。


『波の音みたいでしょう』


ユウはそう言った。

それは、そのピアノの音色と拍手の音、両方を差していたのだと思う。

波に揺られるのが好きなユウ。
同じように、ここで音楽に揺られるのが好きだと言った。

私は運動音痴で、特に水泳は苦手だったから。

そこで音楽に揺られるのだけが、彼と共有できる感覚だった。

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