契約恋愛~思い出に溺れて~
「ごめんね、紗優」
一番手に届くところにいるはずの私が、自分の事で一杯一杯になってどうするの。
紗優を守れるのは、私しかいないのに。
「ごめんね」
「ママぁ」
小さな手が、私の服を握りしめる。
その温かさに引きずられるように、私の口からもポツリと本音がこぼれた。
「ママも、……会いたい」
会いたい。
あんな風に電話を切ってしまったけど、やっぱり会いたい。
英治くんの優しい眼差しが蘇る。
例え、英治くんにふられるのだとしても、
やっぱりこのまま会えなくなってしまうのは嫌だ。
紗優のぬくもりを感じながら、自分の気持ちを固める。
電話をかけよう。
もう一度、ちゃんと話をしよう。
少なくとも、諦めるのは彼の話を聞いてからでも遅くない。
もう逃げるのは、やめなくちゃ。
そんなことを、小さい娘に教えてもらうなんて、思ってもみなかった。