契約恋愛~思い出に溺れて~
達雄と居れば、前みたいにユウのことだけ思っていられるだろうか。
彼を思い出して、目を閉じて流されていけばいいだけだ。
どうせ、英治くんは私を好きにはならない。
だったらいっそ、そうしてしまえばいいの?
そうすれば、なにもかも元通りで、
私はユウを失わずにすむ。
「……」
そう、思ったのに。
私の口から出たのは否定の言葉だった。
「そんなの……無理よ」
「どうして?」
達雄が近づく。
息がかかりそうなほど近くに。
その広い肩を見て、思い出すのはユウだけじゃない。
英治くんの姿が、頭をかすめる。
ユウの香りはもう記憶にない。
だから達雄の持つ匂いに、違和感なんか感じなかった。
でも今は、思ってしまう。
英治くんの香りじゃない。
あの、煙草の匂いを含んだ空気とは違うって。