契約恋愛~思い出に溺れて~


「た……つお?」

「英治なんだろ? 好きな人って」

「う、うん」

「だったら、会いに行けよ。アイツきっと俺に遠慮もしてる」

「でも、英治くんは私のことなんか別に何とも思ってないわ。同情してくれてるだけ」

「本当にそう思う?」


頭の中に、英治くんの姿がよぎる。

いつも穏やかそうに笑う。
きっと誰の前でもそうだろう。

私が特別な訳じゃない。


「思うわ。英治くんは女の子と疑似恋愛が出来るって言ってたもの」

「確かに……ね。でもさ、疑似恋愛するつもりなら、紗優ちゃんにまで会わないんじゃないか?」

「それは、きっと放っておけなかったのよ。紗優が、英治くんの子供のころに似てたから」

「じゃあ、本当にそうだとして、紗彩は諦め切れるの?」

「あ……」

「紗彩が俺に言ったんだろ? 
ちゃんと自分の好きな人と向き合えって」


いつものバーで、苛立ちを含んだ感情で、確かに言った。
叶わない自分のユウへの想いを、達雄に託して。

< 267 / 544 >

この作品をシェア

pagetop