契約恋愛~思い出に溺れて~
「た……つお?」
「英治なんだろ? 好きな人って」
「う、うん」
「だったら、会いに行けよ。アイツきっと俺に遠慮もしてる」
「でも、英治くんは私のことなんか別に何とも思ってないわ。同情してくれてるだけ」
「本当にそう思う?」
頭の中に、英治くんの姿がよぎる。
いつも穏やかそうに笑う。
きっと誰の前でもそうだろう。
私が特別な訳じゃない。
「思うわ。英治くんは女の子と疑似恋愛が出来るって言ってたもの」
「確かに……ね。でもさ、疑似恋愛するつもりなら、紗優ちゃんにまで会わないんじゃないか?」
「それは、きっと放っておけなかったのよ。紗優が、英治くんの子供のころに似てたから」
「じゃあ、本当にそうだとして、紗彩は諦め切れるの?」
「あ……」
「紗彩が俺に言ったんだろ?
ちゃんと自分の好きな人と向き合えって」
いつものバーで、苛立ちを含んだ感情で、確かに言った。
叶わない自分のユウへの想いを、達雄に託して。