契約恋愛~思い出に溺れて~
恋と家族愛
彼は私をじっと見つめる。
私は、飛び出してきた勢いを急速に失って、両腕をだらりと垂らした。
紗優は、嬉しそうに英治くんに話しかけていて、彼はそっと視線を紗優の方へ戻すと、安心させるように微笑みかける。
「あ、英治」
後ろから、達雄が出てきた。
目の前に靴を差し出されて一瞬キョトンとなる。
「紗彩、ちゃんと靴はけよ」
「あ……」
慌てて出てしまったから、靴もはかないまま戸口まで出てきてしまっていた。
私は達雄から靴を奪い取るようにして、俯いた。
パンプスに足を入れていると、足音が近づいてくる。
ザッという音が鳴る度に、私の心臓も同じように大きく響く。
俯いていても足が見えるほど近くまで、彼が来た。
その後ろに紗優の小さな足。
並んで立つ2人に、顔があげられない。