契約恋愛~思い出に溺れて~
どうしよう。
抱きつきたい。
好きだと言ってしまいたい。
だけど、紗優がいる前で、そんな事できない。
「……っくしゅん!!」
その時、ずっと静かにしていた紗優のくしゃみの音が響いた。
大人の視線が一斉に注がれたのに気づいて、英治くんの後ろに隠れて、おたおたと口を押さえている。
「ああ、寒いよね」
英治くんはそう言って、着ていたジャケットを脱いで紗優の肩にかけた。
彼の大きなジャケットは、紗優の全身を覆う。
紗優は嬉しそうに袖を通して、余った袖を匂いを嗅ぐように鼻に押し当てた。
「紗優」
「ママ」
私はそっと近づいて、英治くんのジャケットごと紗優を抱きしめた。