契約恋愛~思い出に溺れて~
ジャケットにしみついている煙草の匂い。
英治くんの香り。そして、紗優の香り。
私が抱きしめているのに、まるで彼に抱きしめられたような気持になる。
「……好きよ」
「ママ?」
「大好き」
「ママ、どうしたの?」
こんな告白で、通じるんだろうか。
隣にいる英治くんからそそがれてる視線に、身動きが出来ない。
顔をあげて、彼を目を見て言えればいいのに、それも出来ない。
紗優に向けて言っているようなこんな告白に、彼は気づいてくれているんだろうか。
紗優が私の言葉に応えるようにギュッとしがみついてくる。
「えへへ」
嬉しそうな声は、バクバクしている私の心臓を、少しだけ和ませてくれた。
英治くんも、達雄もただこちらをじっと見ている。
私は、顔を上げることもできなくて、ただただしがみつくように紗優を抱きしめていた。