契約恋愛~思い出に溺れて~
しばしの沈黙の後、最初に口を開いたのは、達雄だった。
「……紗彩はもう、思い出だけと生きる気はないって」
その言葉に、英治くんが息をのむ音が聞こえた。
「わかった」
そうはっきりと言うと、彼は私の肩に手を置いた。
「行こう、二人とも」
「え? でも」
「もう達雄との話は終わったんだろ?」
「う、うん」
私が紗優を離して立ち上がるのと同時に、達雄が近づいてきた。
「あ、待てよ。紗彩、鞄」
「あ、ありがと……」
伸ばした手を遮るように、英治くんが先に鞄を掴む。
「サンキュ」
そう言って、達雄の肩を一度ポンと叩くと、紗優の手を引いて車の方へと誘導した。