契約恋愛~思い出に溺れて~


 夕暮れの水族館は、入館者よりも出て行く人の方が多かった。


「17時には閉館になりますが」

「ええ。大丈夫です」


受付の人と軽く話し、入場券を持って中に入る。

紗優は目当ての場所があるのか、いつもはへばりついて見る水槽を通り過ぎて、どんどん先へと進んでいった。

私と英治くんは、駆け足に近い速度で、それを追いかけた。


「こっちだようー。おじちゃん、ママ!!」

「ま、待ってよ。紗優」

「……もう息きれてんの、紗彩ちゃん」

「だ、だって」


呆れた口調に悔しさが湧きあがる。
思わず睨むと、彼はにやりと笑った。


「運動音痴」


その言葉が同時に出て、思わず顔を見合わせて笑う。


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