契約恋愛~思い出に溺れて~


 扉を開けると、オーナーの倉崎さんが気付き私に頭を下げた。


「いらっしゃいませ。……あれ」

「すいません。一人なんですけど」

「どうぞ? カウンターでよろしいですか?」


見おぼえがあると思われたのだろうか。
一瞬マジマジと顔を見られてしまった。

倉崎さんはまだ若い。
おそらく20代後半くらい。
そしていつも半袖Tシャツを着ているイメージがある。

昔それを突っ込んだ時は「演奏するから」って言っていたけれど、
ステージとはそんなに熱いのだろうか。

今は12月も下旬に入る頃だし、今日はかなり冷え込んでいるのに。
良く半袖で居られるなと感心してしまう。


「ジントニックお願いします」

「かしこまりました」


通してもらったのはカウンターの一番端。
私が一人なのを気にかけてくれたのだろう。

隣の男性客二人組とは二つ席を離してくれた。

このくらい気が利くなら、若いオーナーでも大丈夫なんだろう。
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