契約恋愛~思い出に溺れて~

「こっちだよー」


ようやく紗優が立ち止まったのは、イルカショーが行われる水槽だ。
もうショーは終わっていて、ここに立ち寄る人は殆どいない。


「紗優ちゃん、ショーは今日はもう無いよ」

「うん。しってる」


紗優は水槽の柵にぎりぎりまで近寄って、風に揺れて波立つ水面を見ていた。


「紗優?」

「パパ、うみにいるんだって」

「……え?」


英治くんが反射的に私の手を離した。

それが突き放されたように感じて、私の胸を一瞬で暗くさせる。


「でもサユはここにいるとおもうんだー。だって。ここにくると、サユうれしくなるんだもん」

「え?」

「ママだって、うみみてるときより、ここみてるときのほうが、やさしいもん」

「紗優……」
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