契約恋愛~思い出に溺れて~
ユウは、そこにいるの?
私は風に揺れる水面を見つめた。
海の波より穏やかで優しい揺れ。
そうかも知れない。
パパになったユウは、独身の頃よりずっと穏やかで優しくなったもの。
ユウ、見える?
私もね、この人が好きになったの。
ユウの事、とっても好きだったのに。ごめんね。
だけど、もう自分の気持ち、抑える事はできないんだ。
冷たい北風が、頬を撫でつけていく。
ずっとこうしていたら、風邪をひいちゃう。
もう戻りましょうと、声をかけようかと思った時、英治くんがポツリと言った。
「うん。……俺も、紗優ちゃんのパパが好きになったよ」
「ホント?」
「こんな風に優しい人だったんだろ?」
そうして、私の方を振り向く。
なんて言っていいか分からなくて黙ってると、彼が紗優の手を引いて私の近くまで戻ってきた。