契約恋愛~思い出に溺れて~
「どんな人だったの?」
「……英治くん」
「教えて」
「どんなって……サーファーだったの。海が好きで波に乗るのが大好きで」
「紗彩ちゃんがサーファーと結婚するって、なんか意外」
「私もよ。まさか彼と恋に落ちるなんて思わなかった。だけど気が付いたら……大好きになってたの」
力を抜けと、言ってくれた。
私の世界を変えてくれた、初めての人。
「だけど、サーフィンの大会で溺れてしまったの。あまりにも、突然で……」
彼の死を受け入れていたつもりだった。
だけど本当はずっと、そうじゃなかったのかも知れない。
だから頑なに、彼を好きで居続けたかった。
「そう」
英治くんは紗優の手を引きながら、もう一方の手で私の手を掴んだ。
「そろそろ行こう。寒いから風邪ひいちゃうよ」
再び握られた掌に、安堵する。
英治くんは何を考えてるんだろう。
聞きたい。
知りたい。
でも、紗優を前にそんな事も聞けない。