契約恋愛~思い出に溺れて~
閉館時間まで、館内を見て回った後、夕飯に連れて行ってくれると言うので、
私は駐車場で家に電話を入れた。
『紗優は元気かい?』
母の少し落ち込んだような声に、私は微笑んだ。
「大丈夫。ごめんね、母さんにいつも紗優の事任せっぱなしで。
私がもっとちゃんとしなきゃいけないんだよね」
『そういう訳じゃないよ。ただ、この間はちょっと苛々してしまって。本当に悪かったね。とにかく、楽しんでおいで』
「うん。ありがとう」
電話を切って振り向くと、紗優が心配そうな顔でこっちを見ている。
「おばあちゃん……なんか、いってた?」
「ううん。楽しんでおいでだって」
「そっか」
先に乗り込んでいた紗優が安心したように顔をひっこめる。
私も乗せてもらって扉を閉めると、「じゃあ、動くよー」と彼が言う。
車窓から水族館を眺める。
後ろ髪を引かれるような感覚に襲われるのは、あの水槽にユウがいるなんて話をしていたからだろうか。
目を閉じて、車の揺れに身を任す。
疲れていたつもりはなかったけど、私は数分もしないうちに眠りに落ちてしまった。