契約恋愛~思い出に溺れて~
「別に。ありきたりの事だけ」
彼はそう言うと、自分のグラスを持ち上げ、「乾杯」と片目をつぶる。
……なんか。
誤魔化されてるみたい。
そんな仕草の一つで、ドキドキしてどうでもよくなっちゃうのが、悔しいような嬉しいような変な感じだ。
カクテルを一口飲むと、喉がスーッと潤った。
自然に一つ溜息が出て、英治くんに頬をつつかれる。
「忙しいの?」
「うん。月末納期の仕事があるから。納期近いと残業ばっかりで」
「紗優ちゃん、大丈夫なの?」
「多分。母がいるから。寂しいだろうけど、私も仕事だもの」
「まあ……な。……一つもらっていい?」
英治くんの手が伸びて、サンドイッチを一つ掴む。