契約恋愛~思い出に溺れて~
「嫌だった?」
困ったように首をかしげる彼に、全力で否定した。
「ちが、違う。嬉しい。あの、……英治くんがそこまで考えてくれてるなんて思わなくて。びっくりしただけ。
だって、結婚願望は無いって言ってたじゃない」
「うーん。まあね。正直言えば、結婚して自分がちゃんと親になれるのかはかなり不安あるけど」
「じゃあどうしていきなり」
「とにかく一度挨拶だけはしたいんだよ。
でないと、紗優ちゃんが可哀想だから」
「え?」
「『おじちゃんのことわるくいわれた』って、この間紗彩ちゃんが車で寝ちゃった時に言ってた」
「紗優、そんな事を言ったの?」
「子供だからな。気になってる事は言うだろ。むしろ溜めこまれた方が困る。今度の休み、行っていい?」
「いいけど。……あ、でも紗優の卒園式の服を買いに行かなきゃいけないのよ」
「じゃあ、その後で一緒に行けばいいじゃん。別にどっか出駆けるのだけがデートでもないだろ」
「あ、そうね」
どうしてだろう。
私が一人で考えていると、ものすごく堂々めぐりしてしまう事が、
英治くんとだと、何でもない事のように進んでいく。