契約恋愛~思い出に溺れて~


おたおたしている私の心の叫びが聞こえるはずもないけど。

英治くんは、軽く笑って肩を叩いた。


「冗談。さすがに平日だし。お持ち帰りしたら帰したくなくなるしね。
今日はもう帰ろうか。タクシー相乗りしてこう」

「え? あ、……うん」


あっさりとそう言われて、何だか拍子抜けする。

ヤダな。
残念とか思ってる自分が恥ずかしい。


外に出ると、冷たい風が全身を覆う。
英治くんは風上に立って、私の肩を抱いて歩きだした。

近い距離と、彼の匂いにドキドキする。

表通りに出てタクシーを捕まえるのだろうと、私も足早に歩くと、
通りの途中で突然立ち止まり、抱きしめられた。


「え、え、英治くん?」

「またしばらく忙しいんでしょ」

「そうだけど」

「会えなくなるから」


ぎゅっともう一度強く抱かれ、触れるだけのキスをする。
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