契約恋愛~思い出に溺れて~
「お邪魔していい?」
「うん。あの。両親ともいるんだけど」
「助かるよ。一回のあいさつで済むから」
相変わらず飄々とした英治くん。
この人には緊張という言葉はないのかしら。
「おじちゃん、こっち」
私よりも紗優の方がよっぽど頼りになりそうだ。
紗優は彼の腕を引いて、両親が待つリビングへと向かい、私はその後に続いた。
「はじめまして。葉山英治と申します」
英治くんは両親の視線に怯む事もなく、そう言って頭を下げた。
「どうも、紗彩がお世話になっているようで。……まあ、かけてください」
父親がソファに誘導する。
普段、仕事ばかりの父親が、土曜とはいえ家にいるのは珍しい。
彼が来るというのを、少しは意識してくれたという事なんだろう。