契約恋愛~思い出に溺れて~
「ユウの事、否定しないで」
「紗彩」
「もう、いない人なんだからっ……」
自分で言ったその言葉が悲しくて、唇を噛んで堪える。
言葉を告げれなくなった母と顔を合わせるのも辛くて、
手早くコーヒーを入れてリビングに運んだ。
「どうぞ」
先に英治くんの前に、そして父の前にコーヒーとケーキを出す。
「あー、おいしそう」
「紗優の分もあるよ」
紗優の分のジュースとケーキを置いた時、英治くんの視線に気づく。
「何かあった?」
「え?」
気づかうような深い瞳で見られて、
心の底まで見透かされたような気がした。